――川村さんが作品をプロデュースする上で、これだけは大事にしたいという指針のようなものは何ですか?
“自分が見たいものを作る”ということです。自分が見たい映画を作っているし、読みたいストーリーを小説として書いている。ただ、考え始めると、これが結構難しいんです。
インターネットをはじめとして、これだけ面白いものが世の中にあふれている中で、どうすればわざわざ映画館や書店に行って、自分が作った映画や小説を選んでもらい、楽しんでもらえるのか。それをひたすら煎じ詰めて考えていくので、企画が固まるまでがすごく長いですね。そのプロセスのなかでようやく“自分が見たいもの“が観客や読者に面白いと思ってもらえるものになっていく。だから時間が掛かりますし、効率が悪いです(笑)。
――川村さんが受け手として、見たくなる、読みたくなるものの条件を教えてください。
いくつかありますが、一つはタイトルです。タイトルがフニャフニャしているものはダメだと思う。タイトルを決めてそれ相応の中身を作るパターンがあれば、内容からタイトルをひねり出すパターンもあるんだろうけど、どちらにしてもタイトルに魂があるような気がしています。
「億男」もすごく悩んで付けたタイトルでした。一つヒントになったのは、アメコミヒーロー映画でした。バットマンもスパイダーマンも人が羨む能力を手に入れているのに、力を手にした本人はあまりうれしそうじゃないし、苦悩している。お金もそうなのかなって思ったんですよ。お金はある種、人を特別にするのと同時に苦悩もさせる、超能力みたいなものなんじゃないかと思って、「億男」というタイトルにしました。
こういうタイトルを付けると、物語や文章もタイトルに引っ張られて固まっていきます。だからすごく大事にしていますね。